平日の昼下がり、渋谷Bunkamuraにて行われていた「ルドンの黒」展を訪れた。ひどく暑い日が続き、体調を崩して仕事を休んでいたのだが、いい機会だと思い切って足を運んだ。オディロン・ルドンの黒の作品ばかりを集めた美術展だということで、静かに鑑賞したいと思っていたし、なにより混み合った美術館が好きでなかった。
私の中では、ルドンといえば「キュクロプス」であった。大きな一つ目が顔の真ん中でこちらをじっとみつめている巨人。いや、その視線の先にあるのは、かなわぬ恋の相手ガラテアだ。その不恰好な姿と悲しみに似合わぬほどのやさしい色彩に満ちた風景。その中で、そこだけ世界が違うような、モロー風のファム・ファタルの繊細な姿。たぶん、はじめは何か美術の教科書で見たのだと思う。童話の一場面のようで、どこかゆがんだ寂しさがあって、とても好きだった。首をかしげた巨人の優しい顔と、「オディロン・ルドン」の名とその独特な色使いは、私の記憶に刻まれた。
会場の入り口では、あの笑う「蜘蛛」のアニメーションが迎えてくれた。そのほとんどが黒一色の作品で構成された会場。不安をたたえた、いびつな黒の世界。紙の質感と微妙な色が、わずかに温かさを与えているのだと気づく。名前はよく知っていたはずなのに、なんだか知らない画家のように思えた。
異形の怪物と大きな眼球のモチーフは、確かに一貫して何も変わってはいないのだが、一連の黒の作品は「キュクロプス」の色彩世界とあまりにも正反対で、同じ画家の作品とは思えないほどだったのだ。
ルドンの描く怪物たちは、自らが異形であることを知っているように思える。不完全な心と体を悲しみ、受け入れ、そこに姿を現しているかのようだ。そして我々は、人間こそがこの地球上でもっとも不完全で異形であると、気づかされるのだ。
さて、この機会を逃した方も、日本国内で彼らに会うことは可能だ。今回展示された膨大なコレクションは、全て岐阜県美術館の所蔵なのだそうである。
「ルドンの黒 - 目を閉じると見えてくる異形の友人たち」
Bunkamura ザ・ミュージアム 2007年7月28日-8月26日



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