ギュスターヴ・モロー美術館

GustaveMoreau_Salome.jpgモローの絵に初めて出会ったのは、中学の終わり頃と思う。きっかけは覚えていない。サロメであることは確かなのだが、ビアズレーより前であったのか、どうか。渋谷の東急文化村あたりの、世紀末をテーマにした展覧会の中の1点、だったのかもしれない。

そして、私はすぐに「ギュスターヴ・モロー 夢のとりで」という画集を手に入れている。絵はもとより、紙の種類や解説の装飾まで美しくデザインされた本で、それを所有する喜びは大きく、何度も見入ったものである。

この本はモロー選集であると同時に、大岡信氏による評伝書でもあって、モローの人となりから後世の評価まで窺い知ることができるのだが、私の心を捕らえたのは、本の冒頭、繊細な螺旋階段を映した見開きのモノクロ写真と、この言葉だった。「パリ9区ラ・ロシュフーコー街14番地にギュスターヴ・モロー美術館がある。」

当時はまだ海外なんて行ったこともなかった。けれど、フランスのどこかに、この螺旋階段と、モローの幻想的な絵画をたくさん所蔵する、小さな邸宅がある。しかも、モロー自身が望んで自邸を美術館に改装し、未完の作品まであるのだという。

住所までわかっている、ということが、この美術館を急に身近な、手の届く現実の夢にしてしまった。覚えてしまうまで、この住所を眺めた。

高校1年生の夏、沖縄と決まっていた家族旅行にフランス行きを主張し、たぶんヨーロッパに憧れていた父が賛同したのだろう、それはいつのまにか11日間でフランス・イタリア・スペインを廻る豪華ツアーになってしまった。

スケジュールのきっちり決まったパッケージ・ツアーで、自由時間には美術館は開いていない。予定のオルセー美術館をキャンセルし、私たち家族だけが、ラ・ロシュフーコー街へと向かった。
家族はきっと有名なオルセー美術館の方を見たかったのに違いない。けれど私は、予想以上にこぢんまりとした、セピア色の印象の邸宅に、大変満足した。

モロー美術館で手に入れたカタログと縦長のリーフレットは今も大切にしているが、今よく見かえしてみれば、残念なことに、建物の写真は全く載っていないのである。

しかしありがたいことに、時代は変わって、古めかしいモロー美術館にもWebサイトができた。ここに行けば、いつでもカラーで部屋の様子を見ることができる。
ギュスターヴ・モロー美術館

あれから随分時が経った。たしかに自分はここを上ったのだと、夢の出来事のように思い出しながら、高校生だったあの頃に見たのと同じ螺旋階段の写真を眺めて、また憧れを新たにするのである。

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熊谷 惠雲 (vivian)
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